漆黒の夜空から2 (12)
- 2015/02/02
- 23:00
どこかでカチリと何かが開く音がした。
外は白々と明けはじめ、カーテンの隙間から朝日が差し込み始めている。昨日風音の帰りを待っているうちにそのまま寝てしまった。座布団を並べて横になっていたが、やはりフローリングの上で寝るには薄すぎて、体の節々が痛かった。
うっすら視界に人の足が見え、そっとそっと部屋に忍び込む足が見え、そのまま視線を上げると風音が入って来るところだった。そしてその足は何かにつまづき、派手な音が部屋中に響く。風音が慌てた。俺はその風音と目が合った。
「あ……、オハヨーゴザイマス」
「何がオハヨーゴザイマスだ。えらい遅い帰りだな」
「ゴメン。迷子になって帰れなくなった。デンワも使えなくて、シュウセイに連絡できなかった」
俺はごろ寝から座り直し、
「だから、ちゃんと充電しろといつも言ってるだろ」
と生えた無精髭を手でざらりと撫でた。
「あのさ、メシの準備もあるし、一言言って欲しいんだよ。ほんの一言連絡すればすむことだろ。一緒に暮らしているんだからさ、互いにルールってもんがあるだろ」
風音は
「これからは気をつける……」
とだけ言った。
俺は心の底から湧いてくる苛立ちを感じながら、
「どうせ、いつものように俺が怒っているから、テキトーに返事してるんだろ」
言葉はシニカルに滑り始める。
「別にムリして、俺に付き合ってくれなくてもいいんだぞ」
本心じゃなかった。ただ心が滑り始める。
「俺の事が嫌なら、ここにムリに居なくていい」
止まらなくなる。
「俺の事、好きでもないのに、付き合ってくれなくていい」
言いたい事はそうじゃないんだ。
「うるさくて、いつも怒っている俺の事、本当は嫌なんだろ」
なんでこんな言葉しか出てこないのだろう。
「別に出て行ってくれて構わない。別に俺に構わなくていい」
一度放った言葉は取り消せない。風音の言葉を待った。しかし風音は俺の目をじっと見ている。無表情に見ている。一体何を考えているのか、ちっとも分からなかった。
風音はすっと音も無く立ち上がると、何も言わずに部屋を出て行った。そして玄関ドアが閉まる音がゆっくり響いた。
何故、俺は風音に素直に好きだと言い、ずっと側に居て欲しいと言わないのだろうか。俺は風音に好きだと思われたい。風音に一緒に居たいと言われたい。だけど口から出た言葉は全部反対の事だった。
所詮、天女は天へ帰るだけだ。
俺も天女を見初めた男達と同じ運命を辿る。
喩え、どんなに願ったとしても。
外は白々と明けはじめ、カーテンの隙間から朝日が差し込み始めている。昨日風音の帰りを待っているうちにそのまま寝てしまった。座布団を並べて横になっていたが、やはりフローリングの上で寝るには薄すぎて、体の節々が痛かった。
うっすら視界に人の足が見え、そっとそっと部屋に忍び込む足が見え、そのまま視線を上げると風音が入って来るところだった。そしてその足は何かにつまづき、派手な音が部屋中に響く。風音が慌てた。俺はその風音と目が合った。
「あ……、オハヨーゴザイマス」
「何がオハヨーゴザイマスだ。えらい遅い帰りだな」
「ゴメン。迷子になって帰れなくなった。デンワも使えなくて、シュウセイに連絡できなかった」
俺はごろ寝から座り直し、
「だから、ちゃんと充電しろといつも言ってるだろ」
と生えた無精髭を手でざらりと撫でた。
「あのさ、メシの準備もあるし、一言言って欲しいんだよ。ほんの一言連絡すればすむことだろ。一緒に暮らしているんだからさ、互いにルールってもんがあるだろ」
風音は
「これからは気をつける……」
とだけ言った。
俺は心の底から湧いてくる苛立ちを感じながら、
「どうせ、いつものように俺が怒っているから、テキトーに返事してるんだろ」
言葉はシニカルに滑り始める。
「別にムリして、俺に付き合ってくれなくてもいいんだぞ」
本心じゃなかった。ただ心が滑り始める。
「俺の事が嫌なら、ここにムリに居なくていい」
止まらなくなる。
「俺の事、好きでもないのに、付き合ってくれなくていい」
言いたい事はそうじゃないんだ。
「うるさくて、いつも怒っている俺の事、本当は嫌なんだろ」
なんでこんな言葉しか出てこないのだろう。
「別に出て行ってくれて構わない。別に俺に構わなくていい」
一度放った言葉は取り消せない。風音の言葉を待った。しかし風音は俺の目をじっと見ている。無表情に見ている。一体何を考えているのか、ちっとも分からなかった。
風音はすっと音も無く立ち上がると、何も言わずに部屋を出て行った。そして玄関ドアが閉まる音がゆっくり響いた。
何故、俺は風音に素直に好きだと言い、ずっと側に居て欲しいと言わないのだろうか。俺は風音に好きだと思われたい。風音に一緒に居たいと言われたい。だけど口から出た言葉は全部反対の事だった。
所詮、天女は天へ帰るだけだ。
俺も天女を見初めた男達と同じ運命を辿る。
喩え、どんなに願ったとしても。
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