漆黒の夜空から2 (6)
- 2015/01/16
- 23:00
「シュウセイ、行こう」
珍しく風音に誘われた。どこに行くのかと聞いたが、ナイショと言われた。そして俺にはサングラスを掛けさせ、自分は金髪のウイッグを付けた。どうやら変装のつもりのようだ。
二人で最寄りの駅まで歩き、電車を待つ。
「で、どこ行く」
「ナイショです。あ、電車来ましたヨ」
風音に腕を捕まれて、電車に乗り込む。
電車に乗り込むと、風音は俺を中の方へ引っ張り、つり革に捕まった。いったい風音は何を考えているんだろう。風音の耳元に話かけたが、
「今取り込み中です。話掛けないデ」
と言われた。
いったい、なんなんだよ。
俺はむすっとしながら、つり革に掴まり、窓の外を見た。別段変わったこともなく、見慣れた風景が流れていく。
突然、風音が前に座る二十代後半ぐらいの男に声を掛けた。
「お兄さん、あなたには悪霊が取り憑いていマス。大変質の悪い悪霊なので、あたしが祓って差し上げマス」
と言うと、いきなり指を素早く動かした。
俺は驚いて、
「おまえ、なにやってんだよ!」
風音は俺を睨み、
「今大事なところデス。悪霊を祓っているの。邪魔しないデ」
俺が腕を掴もうとすると、思いっきり足を踏みつけられ、
「なにすんだよ、いってぇな」
と言うと、今まで見たこともないような鋭い目つきで睨まれた。その途端、術に掛かったように俺は口がきけなくなった。
相手の男もあっけに取られて、黙って風音を見ている。風音に気付いたまわりの乗客のざわめきが聞こえてくる。マズイ。
「すぐに済みますから。ご心配なくデス」
と言うとまた指を動かした。そして、どこからともなく白い紐の付いた金色の鈴を出して、男の額に押し当てて、何かぶつぶつ言っている。そしてその鈴を今度は男の頭上でシャンシャンと鳴らし、深く一礼をした。
「これであなたに取り憑いていた悪霊はこの鈴の中に閉じ込めました。もう大丈夫ですヨ」
と風音が言い終わると同時に、車内アナウンスで次の停車駅を知らせる声が聞こえた。俺は風音の手を掴み、人混みを掻き分け、ドアが開いた瞬間、速攻ホームに出て、風音の手を取って逃げに逃げた。
駅を出て、
「おまえ、ホントなにやってんだよ。相手が何も言わなかったから良かったものの、ヤバイ人だったらどうすんだよ。無事じゃすまないぞ。ホント、バカか!」
風音はするりとウィッグを外して、ふうと一息ついた。
「大丈夫ですヨ。そのための変装です。さあ、シュウセイもサングラス取ってもいいですヨ。どうせ追ってきませんヨ。あの男の降りる駅はあと二つほど先です」
風音はさらりと言ってのけた。
「あの男の事、知ってるのか?」
風音はマズイという顔をして、
「コジンジョーホーは言えません」
と目をそらした。
「仕事か! 神のお使いとやらか!」
俺は睨んだ。そうならそうと、先に言ってくれれば良かったのだ。訳も分からず連れ回されるこっちの身にもなって欲しい。悪霊を祓われた男も、周りに居た他の乗客も、どんな目でおまえの事を見ていたか知ってるか。
俺は背中で見知らぬ他人の好奇の視線を痛いほど感じた。
どこかで「何あれ」と嘲笑するのを聞いた。
何か言いたい事もたくさんあったが、やめた。どうせ風音には通じない。
俺がどれだけその時困ったかなんて、どうせ分かる訳ない。
こんなに空気が読めなくて、バカな天女にいちいち腹を立てたって、どうせ俺の怒りなんか通じやしないんだ。
珍しく風音に誘われた。どこに行くのかと聞いたが、ナイショと言われた。そして俺にはサングラスを掛けさせ、自分は金髪のウイッグを付けた。どうやら変装のつもりのようだ。
二人で最寄りの駅まで歩き、電車を待つ。
「で、どこ行く」
「ナイショです。あ、電車来ましたヨ」
風音に腕を捕まれて、電車に乗り込む。
電車に乗り込むと、風音は俺を中の方へ引っ張り、つり革に捕まった。いったい風音は何を考えているんだろう。風音の耳元に話かけたが、
「今取り込み中です。話掛けないデ」
と言われた。
いったい、なんなんだよ。
俺はむすっとしながら、つり革に掴まり、窓の外を見た。別段変わったこともなく、見慣れた風景が流れていく。
突然、風音が前に座る二十代後半ぐらいの男に声を掛けた。
「お兄さん、あなたには悪霊が取り憑いていマス。大変質の悪い悪霊なので、あたしが祓って差し上げマス」
と言うと、いきなり指を素早く動かした。
俺は驚いて、
「おまえ、なにやってんだよ!」
風音は俺を睨み、
「今大事なところデス。悪霊を祓っているの。邪魔しないデ」
俺が腕を掴もうとすると、思いっきり足を踏みつけられ、
「なにすんだよ、いってぇな」
と言うと、今まで見たこともないような鋭い目つきで睨まれた。その途端、術に掛かったように俺は口がきけなくなった。
相手の男もあっけに取られて、黙って風音を見ている。風音に気付いたまわりの乗客のざわめきが聞こえてくる。マズイ。
「すぐに済みますから。ご心配なくデス」
と言うとまた指を動かした。そして、どこからともなく白い紐の付いた金色の鈴を出して、男の額に押し当てて、何かぶつぶつ言っている。そしてその鈴を今度は男の頭上でシャンシャンと鳴らし、深く一礼をした。
「これであなたに取り憑いていた悪霊はこの鈴の中に閉じ込めました。もう大丈夫ですヨ」
と風音が言い終わると同時に、車内アナウンスで次の停車駅を知らせる声が聞こえた。俺は風音の手を掴み、人混みを掻き分け、ドアが開いた瞬間、速攻ホームに出て、風音の手を取って逃げに逃げた。
駅を出て、
「おまえ、ホントなにやってんだよ。相手が何も言わなかったから良かったものの、ヤバイ人だったらどうすんだよ。無事じゃすまないぞ。ホント、バカか!」
風音はするりとウィッグを外して、ふうと一息ついた。
「大丈夫ですヨ。そのための変装です。さあ、シュウセイもサングラス取ってもいいですヨ。どうせ追ってきませんヨ。あの男の降りる駅はあと二つほど先です」
風音はさらりと言ってのけた。
「あの男の事、知ってるのか?」
風音はマズイという顔をして、
「コジンジョーホーは言えません」
と目をそらした。
「仕事か! 神のお使いとやらか!」
俺は睨んだ。そうならそうと、先に言ってくれれば良かったのだ。訳も分からず連れ回されるこっちの身にもなって欲しい。悪霊を祓われた男も、周りに居た他の乗客も、どんな目でおまえの事を見ていたか知ってるか。
俺は背中で見知らぬ他人の好奇の視線を痛いほど感じた。
どこかで「何あれ」と嘲笑するのを聞いた。
何か言いたい事もたくさんあったが、やめた。どうせ風音には通じない。
俺がどれだけその時困ったかなんて、どうせ分かる訳ない。
こんなに空気が読めなくて、バカな天女にいちいち腹を立てたって、どうせ俺の怒りなんか通じやしないんだ。
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