ぼくはずっとひとりで山に住んでいる。時々、山に遊びに来る人たちに会ったりする。近くにキャンプ場があって、そこに来るお客さん達だ。そこに紛れて、ご飯をごちそうになったり、子供達と遊んだりする。
長く伸びた前髪で片一方の目を隠す。本当は隠さなくても、元から一つ目なんだけど、そうしないと子供達が怖がって、逃げちゃうから。
今日、男の子と女の子の兄妹と知り合った。お兄ちゃんのこうちゃんと妹のみうちゃん。どちらも小学生だって。ぼくは本当は小学校なんか、行ったことないんだけど、小学生ってことにしておいた。
山の中で三人で遊んでいると、遠くでこうちゃんのお父さんが呼んでる。
「今行く!」
こうちゃんはお父さんのところへ行った。ぼくはみうちゃんとおしゃべりしたり、かわいいお花があったから、代わりに摘んであげた。みうちゃんはとっても喜んでいて、お礼にいろんな色の小さな玉が連なった腕輪をくれた。ビーズって言うんだって。ぼくの宝物になった。
こうちゃんが戻ってきて、お父さんからおやつをもらってきてくれた。なんか果物の甘い匂いのするグミ。三人で分けっこして食べた。
「まーちゃんはこの近くに住んでるでしょ?」
こうちゃんが聞いた。
「うん、おじいちゃんと住んでるよ」
「お母さん、いないの?」
「うん」
「お父さんもいないの?」
「うん、おじいちゃんだけ」
「さびしいね」
「そんなことないよ。山に遊びに来る子供と遊んだりするからへいき」
「ふーん」
ぼくはグミのお礼にポケットから、石を取り出し、こうちゃんにあげた。こうちゃんはわあって声をあげた。
「すっごい。まるくてしましまだ。木星みたいだ」
「もくせい?」
「惑星だよ。こんなしましま模様なんだ」
「ここから見える?」
「望遠鏡がないと見えないよ」
「ちいさいから見えないの?」
こうちゃんは笑って、
「とっても大きいんだけど、遠すぎて人間の目では見えないんだ」
こうちゃんは物知りだ。みうちゃんが横から見て、お兄ちゃんだけずるいと言うので、ポケットから小さな薄緑色のぴかぴかな石を出して、みうちゃんにあげた。
「すごーい。宝石みたいだね」
物知りのこうちゃんは、
「それはきっと瑪瑙だよ。まーちゃんの宝物だろ、みうにやってもいいのか?」
「いいよ」
ぼくは今日三人で遊んだことがとても楽しかったので、その記念にあげたいと思った。
夕暮れになり、また遠くからこうちゃんのお父さんがご飯が出来たよと呼ぶ声がした。
「ご飯できたって。まーちゃんも一緒に食べよう」
ぼくはとってもうれしかった。でも、こうちゃんのお父さんの姿が見えたら、怖くなってぼくは逃げ出した。
「あ、待って。まーちゃん」
お父さんが後ろから来て、
「ご飯だぞ」
「まーちゃんが……」
姿はもう見えなかった。ざわっ、ざわっと葉っぱが揺れる音が遠ざかってゆく。
「まーちゃんって、友達か」
「うん、でも、おうちに帰ったみたい」
「ねえ、お父さん見て、まーちゃんにもらったの」
みうちゃんは瑪瑙を見せた。
ぼくは塒に帰った。大きな黒い石をどかして、そこに今日みうちゃんにもらった、ビーズの腕輪を片付けた。
ぼくの宝物入れに一つ宝物がふえた。
ぼくは黒い石を元に戻し、ぎゅっと抱きついた。
――あのね、おじいちゃん。 今日はこうちゃんとみうちゃんと遊んでとても楽しかったよ。
やがて山童の健やかな寝息が聞こえてきた。

鳥山石燕「画図百鬼夜行 陰」
(1414文字)
//メモ
山童の容姿は一つ目で、毛深い。
山にいる山童が川に来ると河童になるという。
それから、山童と人の子供とのやりとりで「木星が肉眼で見えない」ことになっておりますが、
肉眼で見えるようです。しかし小さく確認できる程度ですが。
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