すてれお
- 2013/06/08
- 20:00
二階の座敷に母が嫁入りの時に持ってきたステレオがあった。それは随分昔の物で、オーディオというより家具に近く、そっと天板をあげるとレコード乗せるターンテーブルが鎮座していた。
当の持ち主である母がこのステレオで音楽を聴いているのを見たことがなく、ステレオはひっそりとそこにあるだけだった。
ステレオの横に四角いレコードを片付ける棚があり、その中には何枚もレコードは入っていた。両親が若い頃流行った歌謡曲やクラシックや映画音楽のソノシートがあった。
ある日、幼い私はその中から一枚取り出した。それはラヴェルのボレロのEP盤で赤い透明のレコードだった。それを初めて聞いたとき、不気味な音楽で、このひっそりとした人気のない座敷で聞くにはあまりに恐ろしくて、嫌な曲だと思った。同じフレーズを楽器を替えて次から次へとつなぎクライマックスでいきなり落ちる、それがたまらなく不気味だった。
その後、家で聴く音楽はCDとなったため、ステレオは邪魔になり、壊して捨てられた。その中に入っていた真空管は何故か捨てる気になれず、缶に入れて取っておいた。だが、私自身が余所へ引っ越したり、実家自体が改築したりしているうちに、どこかへ失せてしまった。今手元にあるのはたった一つだけ。それでも何故か捨てる気になれなかった。私が生まれて初めて触れた音楽をもたらした記念にずっと置いておく。
(586文字)

手元に残っている真空管。ナショナルの刻印が読める。
//モーリス・ラヴェル
フランスの作曲家。バレエ音楽「ボレロ」、「水の戯れ」、「亡き女王のためのパヴァーヌ」など。CMなどでも使われていて、タイトルを知らなくても、聞いたことがあるフレーズが多いのではと思う。
当の持ち主である母がこのステレオで音楽を聴いているのを見たことがなく、ステレオはひっそりとそこにあるだけだった。
ステレオの横に四角いレコードを片付ける棚があり、その中には何枚もレコードは入っていた。両親が若い頃流行った歌謡曲やクラシックや映画音楽のソノシートがあった。
ある日、幼い私はその中から一枚取り出した。それはラヴェルのボレロのEP盤で赤い透明のレコードだった。それを初めて聞いたとき、不気味な音楽で、このひっそりとした人気のない座敷で聞くにはあまりに恐ろしくて、嫌な曲だと思った。同じフレーズを楽器を替えて次から次へとつなぎクライマックスでいきなり落ちる、それがたまらなく不気味だった。
その後、家で聴く音楽はCDとなったため、ステレオは邪魔になり、壊して捨てられた。その中に入っていた真空管は何故か捨てる気になれず、缶に入れて取っておいた。だが、私自身が余所へ引っ越したり、実家自体が改築したりしているうちに、どこかへ失せてしまった。今手元にあるのはたった一つだけ。それでも何故か捨てる気になれなかった。私が生まれて初めて触れた音楽をもたらした記念にずっと置いておく。
(586文字)

手元に残っている真空管。ナショナルの刻印が読める。
//モーリス・ラヴェル
フランスの作曲家。バレエ音楽「ボレロ」、「水の戯れ」、「亡き女王のためのパヴァーヌ」など。CMなどでも使われていて、タイトルを知らなくても、聞いたことがあるフレーズが多いのではと思う。
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