毬栗
- 2013/10/29
- 18:00
地面に落ちた毬栗を前にポイントする飼い犬が、時折大きく遠吠えし、素早く位置を変えて、またポイントする。その毬栗を狩りたいのか、出来るものならどうぞ。犬にとっては得体の知れぬ不思議な物。手を出せば、口で咥えれば容赦なくイガで攻撃される。それでも狩猟本能は叫び続ける。秋の味覚を前に。(140文字)...
空想の旅
- 2013/10/28
- 20:00
寝そべって、広げた地図帳で行った事も無い場所に思いを馳せる。知らない地名、通った事も無い道を指でなぞってゆく。山を登り、麓を見下ろす。きっと彼処だ。湖を渡り、県境を越えた。この三叉路を左に入ると、まだ行った事の無い、あなたの住む町へ行ける。指先がつなぐこころの旅。(132文字)...
秋の金魚
- 2013/10/27
- 20:00
やはり十月下旬ともなれば、涼しいというより寒い感じであり、床から起きて、側に脱ぎ捨ててあったカーディガンを羽織って、まだ明け切らぬ朝のキッチンに立つ。 明かりを付けて、真っ先に水槽の前に立ち、金魚の様子を伺う。室内で飼われている金魚は寒さとは無縁であり、その活動は一年を通して殆ど変わらない。 ゆらゆらと尾びれをくゆらして、優雅に泳いでいる金魚をじっと見た。時折口元をパクパクさせる。水槽の側に置い...
畳の縁
- 2013/10/25
- 20:00
――敷居は跨ぐ物であり、踏みつけてはならぬ それは其処に在る異界の存在を信じた日本人の畏怖だと思う。 座敷の畳に寝そべって、ぼんやりしていると不思議なモノが通るのを見かけた。それは畳の縁の部分で、ある場所から突然小さな白鼠が見えた。そして、また消える。長さにして1尺ほど。それを後から黒鼠が追いかけ、消えた。そこに異界と現との境界線があるようだ。 ――それは触れてはならぬ 大人から、よく言い聞かされ...
ぬくぬくと眠る
- 2013/10/24
- 20:00
寒い、布団が体温と同化するのを縮こまって待っていると、すっと横から滑り込んでくる。ぬくい体温を放出する男にしばしくっついていると、もう暑いと布団から出て行ってしまった。布団はもう寒くないが、置いてけぼりは少々心許ない。結局、男の布団の方へ滑り込んで、ぬくぬくと眠った。...
切手
- 2013/10/23
- 20:00
80円の小さな紙切れに、多彩に描かれる小さな世界があって、小人であれば、そのまま飾るといいインテリアになるのではと思う。届いた封書から記念切手の部分を切り離し、しばし水にさらすと、ぺろりとはがれた。それを小さな箱にしまう。もう手紙を届けることも出来ない小さな紙に魅了される午後。(139文字)...
クマちゃん
- 2013/10/22
- 20:25
不毛な妄想を紡いでいると、背中をつつかれた。振り返ると唐草模様の服を着たクマのぬいぐるみがいた。ふわりと抱っこして、クマちゃんのご機嫌を伺うと、新しい使命を伝える、ブラックホール計画っ、ぐりぐりとこめかみをこじると、ふわっとぬいぐるみに戻った。また心静かに宇宙的妄想の続きを紡ぐ…(140文字)//クマちゃんは唐草倶楽部に出てます。...
作業中
- 2013/10/21
- 20:00
薄茶のハトロン紙の上、定規を滑らせて、いくつもの線を引く。小さい誤差が積み重なって正確な形から遠ざかる。紙の上に残る消しゴムのかす。幾度もやり直した線。払った手で誤って皺になる紙。積もる苛立ち。苛立ちを逃すためのコーヒー。(111文字)...
栞
- 2013/10/20
- 20:00
長く読んでいなかった文庫に挟まれた栞はあの日の思い出でした。何故ここに挟んだのだろう。きっと捨てる事が出来なくて、とっくに読み終えた文庫にそっと逃がしたのかも知れない。色褪せたページに挟まれた色鮮やかに残る思い出をやはり今もなお手元に置いてしまう。そしてまた文庫を閉じてしまった。(140文字)...
【あとがき】スルメとアタリメ
- 2013/10/19
- 20:00
「スルメ飛行機選手権」ですが、一度に掲載するにはちょっと長いので、分割しました。もったいぶるようなすごい話でもないので、前後同時にアップ。興味のない方はそのままお戻りになったかと思う。おつまみのスルメをアタリメという商品名で売っていたりしますが、スルメの「スル」が減少を意味する言葉で、これを嫌って「アタリメ」と言うようになったと聞いたことがあります。アタリメの「アタリ」は当たりですよね。つまり増加...
スルメ飛行機選手権(後篇)
- 2013/10/18
- 20:01
←前篇 中年親父組は意を決して、隣の若い連中に話しかけてみた。 「楽しく呑んでいるところ、悪いんだけど……」 知らない中年親父に話しかけられて、その中の一人が、 「あ、すいません。うるさすぎですね。すいません。気をつけます」 と頭を下げるので、中年親父は慌てて、 「違うんだ。君らの話が気になってね」 若い連中はじっと中年親父を見ている。 「実は、スルメ飛行機選手権って、聞こえたのだが...
スルメ飛行機選手権(前篇)
- 2013/10/18
- 20:00
前篇・後篇 同時アップしてます。続けてお読み下さい。---------- やきとりの名門秋吉で仕事帰りに、若い連中ばかりで呑みに行った。 「すんませーん、ねぎま、串カツ、シロ、純ケイをそれぞれ40と生中4、 それと漬物は2でいいか、じゃ2で」 「俺、トマト欲しかったけど」 「じゃ、生中持ってきた時に言えよ」 先に届いた生中でとりあえずカンパイ。 若者4人の隣は、くたびれた中年親父の2人組で、つまんね...
リサイクルの達人
- 2013/10/17
- 20:00
うだうだと腹ばいになりながら、本を読んでいると、何やら小さなモノが視界の隅を横切る。顔を本に向けたまま、視線を動かすと、小人が何やら運んでおり、それは空き箱に捨てずにためてあった半端な長さの絹糸だった。見ると小人の服は見慣れた色で作られており、なるほど小さなリサイクルの達人かと。(140文字)...
エビフライの尻尾
- 2013/10/16
- 20:00
二人で居ると違う生活の合体が可笑しい。エビフライの尻尾だけ皿の縁に残す男に、そこ食べられるよと言うと、そこは捨てる所だと主張。美味しいのにと女が箸で摘まんで頬張る。あまりに美味そうに食べる女を見て、今度食べてみようかと思ったり。逆に酒を呑まない女が日本酒を嗜むようになったり。(138文字)...
失踪
- 2013/10/15
- 20:00
もし失踪するなら、どの本をお供にする?知らない人達が大勢写った写真集と文庫にする。文庫は兎の眼か草枕。兎の眼は子供の頃、先生が朗読してくれて好きだったから。草枕はいつも数ページ読んで挫折するから。朝起きると本棚から写真集と文庫が無くなっていた。それ以来彼女の姿を見る事は無かった。(140文字)...
がり
- 2013/10/14
- 20:00
回転寿司のカウンターでお茶や醤油の皿やらを準備し、最後にもう一つの皿にごっそりとガリを盛る。寿司よりガリが好きとしきりに口に運ぶ。いや、ガリは飾りだろ。違う、食べ物だ、出来ればガリ寿司を食いたいぐらいだ。相変わらずおかしな物が好きだなあと、肘で小脇をつついた。注文の漬物が届いた。(140文字)...
眠り姫
- 2013/10/13
- 20:00
夜遅くに帰ると、眠り姫はラップ掛けした食器が並んだテーブルに俯して寝ており、こんな所で待っていなくてもと思う。もう寝よう、ここでは風邪を引くよと姫を起こすと、ご飯チンした?と聞いてくる。分かったから、先に寝なさいと寝かしつけた。冷めてしまったおかずだが、姫の優しい温もりを味わう。(140文字)...
どんぐり
- 2013/10/12
- 20:00
しゃがんで拾う。その小さな背中の上から覗き込むと、見て、どんぐり、子供のように嬉しそうに見せてくる。ある時は木の下で立ち止まり、上を見上げ、黄色く染める木々の葉を見つめて、季節の移ろいにしきりに感心する。今年は一人でこの木の下に立つ。思い出だけを残して、逝ってしまった貴方を思う。(140文字)...
トツキトオカ
- 2013/10/11
- 20:00
十月十日生まれのその男は、トツキトオカって言うから、子供の頃は誕生日が恥ずかしかったよと笑って言った。本当は十月十日で誕生は正しくないんだけどね。それを自分の誇りみたいに思っているみたいだから、そんな日に生まれた自分が大好きみたいだから、そのまま何も言わずに一緒に笑ってやった。(139文字)...
あくび
- 2013/10/10
- 20:00
ふああと部屋中の空気を飲み込むほどの大あくびを男がする。それを見ていたら、女もふあふああとあくびが出た。男のあくびが伝染ったらしい。女の膝の上でまどろむんで居る小さな犬がこちらを見上げて、ちいさくふぁぁとあくびをした。どうやら女のあくびが伝染ったらしい。そろそろ寝ようか。(136文字)...
狸
- 2013/10/10
- 12:00
昔実家の前をすてすてと狸が通り過ぎるのを見た事がある。実家は金沢駅前の方で、自然とは無縁の場所。数日前にばあちゃんがうちの庭に狸がいたと騒いだ時はボケやがってと思ったが、実際に目の前を通り過ぎるのを見て、ばあちゃん、疑ってゴメンと思った。その狸は夜の繁華街の方へ消えていった。(138文字)...
唐草倶楽部(7)
- 2013/10/09
- 20:00
唐草倶楽部(6)の続き 戦いは終わったが、困ったことに気づいた。芋虫の死骸が見える。気持ち悪い。どうする?結局、私は朝顔どころか、花壇にさえ近づけなくなった。こうやって私と朝顔の関係は終わった。その頃から、やたら晴れの日が続き、朝顔はからからに枯れていった。 私は自室で背中を丸めて、ネット上でぼんやり妄想をつぶやいていると、背中をつんつんされた。振り返るとクマちゃんがいた。 「その後、地球唐草化計...
唐草倶楽部(6)
- 2013/10/08
- 20:00
唐草化計画(5)の続き その夜、亭主に事の顛末を話すと、 「だから、やめておけって言ったのに。 そりゃ、あんなにバカスカ花が咲けば、蝶々だって狙ってくる」 と笑われた。 「どうしよう……」 「ま、放っておけば。そのうち蛹になって巣立ってくだろ」 あの朝顔が咲いて、童心に返ったように喜んでいた日々が終わってしまった。私は決意した。朝顔を枯らそう。枯れて、葉っぱが喰えなくなれば、芋虫も滅ぶ。今年の朝...
唐草倶楽部(5)
- 2013/10/07
- 20:00
唐草倶楽部(4)の続き 朝顔は伸びに伸び、やがてつぼみを付けた。たたんだ折りたたみ傘をくいっと捻ったように見えるつぼみを見つけたときは狂喜乱舞した。植えた植物が初めてつぼみを付けるとこんなに嬉しいものかと思った。そのうち最初の朝顔がぱっと開いた。その牡丹色で白い縁取りが可憐な朝顔を愛おしげに見つめ、デジカメで撮影した。マクロで撮った写真をパソコンの壁紙にしたりして楽しんだ。押し花もチャレンジした...
唐草倶楽部(4)
- 2013/10/06
- 20:00
唐草倶楽部(3)の続き 次の日から、毎日毎日欠かさず水やりをし、生えた雑草をとり、ついでに隣の朝顔にも、ちーっと水を与えたりした。やがて芽が出て、双葉となり、本葉が出てきた。そしてたくさん芽が出るように摘芯をした。 自室で唐草模様の座布団に座って、いつものように下らない妄想を紡いでいると、背中をつんつんしてきた。振り返るとクマちゃんがいたので、取り敢えず蔓草を植えたことを報告した。 「それでいつ地...
唐草倶楽部(3)
- 2013/10/05
- 20:00
唐草倶楽部(2)の続き 季節はめぐり、唐草模様の半纏を仕舞う頃になった。早速、クマちゃんから言いつけられた「地球唐草化計画」を実行するため、蔓草を求めて……と思ったが、そもそも何の蔓草を育てれば良いのだろう。ぱっと思いついたのは朝顔だった。あれなら咲いていても綺麗だし、もし他人様の敷地にこっそり埋めたとしても、嫌がられることはないだろう。 さっそく朝顔の種を求めて、園芸店に行った。植物の種のコーナー...
唐草倶楽部(2)
- 2013/10/04
- 20:00
唐草倶楽部(1)の続き そんな唐草模様的妄想を膨らましていると、丸めた背中をつんつんされる。はて、自室に一人籠もっている私に御用の方は人なる者以外であろう。座敷童や小鬼が棲む古い家に住んでいたので、人ならざる者と出会ってもあまり驚かない。 振り向くと、何時だったか、妹に作ってもらったクマのぬいぐるみがいた。ぬいぐるみも唐草模様の洋服を着用している。 「クマちゃん、どうしたの?」 私はクマのぬいぐる...
唐草倶楽部(1)
- 2013/10/03
- 20:00
アラベスク、馴染み深い言葉で言うなら、唐草模様。 その枝分かれしつつも、延々と伸びてゆく様は繁栄を意味する縁起物であり、何故か泥棒が愛用する風呂敷の模様として世に知られる。もしかすると盗み出した物が蔦に絡め取られて、逃走中に落っことしたりしないようにと験担ぎで使ったのかもしれない。 一辺が三尺三寸の横綱座布団の中心に座る。座布団カバーは随分前に自ら縫った藍色の唐草模様で、その模様の蔦を人差し指で...
秋の虫よりもずっと
- 2013/10/02
- 20:00
秋の虫よりもずっと切ない声でないてくれる。秋の虫よりもずっと情熱的に恋を歌ってくれる。秋の虫よりもずっと物悲しく命を語る。秋の虫よりもずっと一緒に居てくれる。秋の虫よりもずっと景色の移り変わりを楽しんでいる。秋の虫よりもずっと寒い季節に焦がれる。秋の虫よりも貴方はずっと。(136文字)...
ほろ酔い
- 2013/10/01
- 20:00
少々女の頬が色づいて、先程からあおっている酒に酔っている模様。その頬にそっと手を伸ばすと、ひんやりと気持ち良いと言う。その満足げな横顔を黙って見ていると、ふいに楽しげな顔でこちらを見るから、そっと抱きしめて、今日はもう寝てしまいなさいと諭す。愉快だからまだ寝ないのと言い返された。(140文字)にほんブログ村...